『前者の戯言』 ラグビーシリーズ⑬
 李智栄〈リ・チヨン〉(経済 4年次)
妥協を許さない「チヨン先生の出張授業」

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一切の妥協を許さない。どんなときも自分を追い込み、鍛え上げられた肉体。そのハートも熱い。ときには悲鳴を上げる身体。それでも王者の道を追究していく。

李智栄〈リ・チヨン〉(4年 大阪朝鮮)は研究熱心な勉強家だ。スクラム練習では「まだまだ!最後まで押し切ろう!」と声を張り飛ばす。そんな李智栄を、指導歴44年の大西先生が『練習中の先生』とまで評する。

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グラウンドを離れると眼鏡をかけて授業を受けることが多い。マジメなオーラが全開。ひたすらノートを取る印象がある。だが、授業が終わってフィールドに帰ってくると、さっきとは別人。まるでスーパーマンに変身したかのような雰囲気で、日本一厳しいと言われる練習に励んでいく。
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練習中、李智栄を見ていると思い出すことがある。大西先生が開講する「スポーツと人間形成」という特別講義。「ゴールデン・ブーツ」との愛称を持つ、廣瀬佳司さん(元日本代表・キャップ数40・京産大ラグビー部OB)が言っていたことだ。

「走るメニューでは、ラインが目標になり終盤で失速しては伸びていかない。ラインを越えたところまで走り抜ける意識を持つことが重要」。

この言葉を聞いてから、何度か意識的に練習を見学してみた。FW陣のフィットネスで、毎回最後まで走り抜けているのは、中川将弥(3年 御所実)、伊藤鐘平(1年 札幌山の手)、そして李智栄の3人だ。特に李智栄は主将・眞野よりも半歩速くゴールすることを心掛けているようにも見える。もちろん、眞野が手を抜いている訳ではない。

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妥協を許さない性格は、試合中でも生きる。先日のメイジ撃破。80分間のホーンが鳴り、ラストワンプレーとなったとき。必死のディフェンスで相手を食い止める京産大。そこに「ピッ」とレフリーが笛を吹く。

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勝利だと思い込み、喜ぶ選手たち。だが、李は冷静だった。「まだ終わってないことを知っていた」と振り返るように、歓喜に舞う選手たちに一喝。「広がれ!」そう、アドバンテージが出ていたため、まだ試合は終わっていなかった。

『京産大26-22明治大』と4点差。気が緩んだ隙にトライを奪われると、逆転負けを喫することになる。「勝つことしか考えてないので」絶対に白星を掴むための状況判断だった。

そして最後に試合を決めたのも、やはりこの男。仲間が低いタックルでディフェンスを重ね、相手が怯んだところに『一撃タックル』。研ぎ澄ませたボール獲得の『本能』で勝利を掴んだ。

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ふと脳裏をよぎったは開幕試合の同志社戦。「最後も絶対に止めて、勝ち切りたかった」。今季チームは確実に成長している。もちろん、味わった悔しさは計り知れないほど大きい。それでも、自分たちの手でリベンジの機会を掴んできた。負けたことに意味を感じ、それを『教訓』としてやってきた。「どんなときも僕は、試合に負けるなんて思ったことがない」。不屈の精神が『赤紺の支え』となっている。
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12時03分、縦1列で選手がフィールドへ。円陣を組み、李智栄は仲間に伝えた。「たくさん観にきてくれた。声援を味方にしていこう」入場行進でスタジアムに踏み出した瞬間、ファンの温かさに気が付いたという。

実は、その前日。チームメイトと共に京都・宝ヶ池球技場へ足を運ぶ。関西リーグのAB入れ替え戦をスタンドで観ることが目的だった。観客目線で試合を観た赤紺の背番号「7」。応援してくれる人の存在を感じたという。

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死闘を繰り広げてのメイジ撃破。
その根本には「練習に取り組む姿勢」がある。

試合後の取材で「練習で力を出し切れないチームは、試合でも出し切れない」と、元木ヘッドコーチが語るように、主将・眞野を筆頭として練習から100%出し尽くしてきた。その横には李智栄がいる。バイスキャプテン(副主将)として眞野主将を献身的にサポート。
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〈近畿大戦でMOM受賞〉

今季からトーナメント制に戻された大学選手権。温存なんて要らない。目前の1戦に勝つか負けるか。それですべてが決まる。

3回戦では聖地・花園で明治大を倒し「7度目の正直」を成し遂げた。更なるステージは東京・秩父宮。相手は関東大学リーグ1位の東海大だが、ここまで来たら肩書きなんて関係ない。勝てば10年ぶりのベスト4進出。お正月まで熱い「京産大ラグビー」を見せつけられる。

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12月17日〈準々決勝〉、1月2日〈準決勝〉、1月9日〈決勝〉。会場はすべて東京・秩父宮。チームメイト、そして赤紺ファン全員が、1試合でも多く『チヨン先生の出張授業』を受けたい。頼んだぞ、李智栄!