『前者の戯言』 ラグビーシリーズ⑰
 細野裕一朗(法 4年次)
 デカい背中で示す「3番プライド」

細野さん (3)


人生には「ターニングポイント」と呼ばれる分岐点が、いずれ訪れる。その好機を生かすか殺すか、それは本人次第だ。そう何度とないチャンス。巡ってきたタイミングで、それまで以上に、必死に歯を食いしばれるか。

赤紺戦士の中にも「ターニングポイント」で実力以上の力を発揮し、そのポジションを自分のものにした男がいた。京産大のプライド『3』を背負った、細野裕一朗(京都学園)だ。

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京都学園高では部員が20人ほど。試合こそはできるが、練習相手がいなかった。だからなのだろうか、京産大に入学したとき思ったと言う。「満足に練習ができて、本当に楽しい」。

そんな彼はラグビー歴10年目。「従兄弟がプレーしていて、面白そうに思った」と、ラグビーを始めた中学1年生から、ポジションはずっとPR(プロップ)だ。

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181㎝、108㎏と恵まれた身体で、相手を押し込む。両肩で受ける圧力、強靭な足腰で支えるスクラム。流れるように押し進む、伝統モール。セットプレーから展開することが持ち味の1つ。いわゆる「赤紺の芸術」を奏でたのは、デカい背中で示す『3』の男だった。

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そんな彼も、下積み時代がある。上の学年には浅岡勇輝(現:近鉄ライナーズ)がいた。浅岡が『3』を背負って活躍していたころの話。細野は「自分が試合に出れるんかなぁ、なんて思ってたこともあります」と、おどけて振り返る。

その後、順調に頭角を現す。関西学生代表に選出され、NZ学生代表との真剣勝負も経験。試合終盤ではあったが、慶應大を押し込んで奪ったトライもある。

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そんな細野も昨季、思うようなプレーができず、自分自身に不満を抱えていたことがあったと言う。もちろん、そのことを首脳陣は見抜いていた。「お前がしっかりせんとどうする」。当初は重い責任感から、練習に出たくない気持ちもあったと振り返る。だが、そんなとき、大西監督から一言だけ告げられる。

「細野、京産大の『3』はプライドやぞ」。入学時は、あまり理解できなかった言葉。今は、その言葉の重みがわかったという。

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2016シーズン、リーグ戦での活躍が評価され「ベスト15」に選ばれた。細野は照れくさそうに語る。「京産大の3番として、ベスト15に選んでもらって嬉しい。だけど、あれだけスクラムを押せたのは、後ろのみんなのおかげ。みんなが取らしてくれたベスト15です」。細野は仲間想いの優しい男なのだ。

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『京産大26-22明治大』スタンドを沸かせたラストワンプレー。主審がピッと笛を吹く、わずか前から、なんと細野は両手を突き上げている。一番近い場所で、自分の目で、しっかりと勝利を確信してから、その歓喜を味わったのだった。

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卒業後も第一線でラグビーを続ける細野。取材を終え「ありがとうございました、また会いましょう!」そう言って別れを告げた後ろ姿には、ユニフォーム姿みたいに『3』という数字が、うっすらと見えた。それほど『3』が似合う選手だった。

両肩で受けたスクラムの重みを、更なる夢へと変えて。掴んだチャンスを離さない。自分の力で、右肩上がりの「未来」へと押し切る。