ひたむきに―。意地になって楕円球を追う。あの日、後半ロスタイム。すでに時計の針は80分を過ぎていた。観客席から自然と発生した「京産コール」が鳴りやまない。拳を握って立ち上がり、祈るようにしてグラウンドを見つめる。赤紺15人が身体を張り、最後のディフェンス。もう体力は余っていない。残されていたのは〝強い気持ち〟だけだった。「ピピピー!」。ノーサイドの笛で、跳び上がった。そして、スコアボードを確認した。

 「京産大26―22明治大」

 過去6戦6敗。7度目の正直だった。赤紺フラッグが舞う。ついに明治大撃破を成し遂げた。あなたは現場で見ただろうか。新たに赤紺史へ刻まれた、あの試合を―。
 
 忘れもしない。2016年12月11日。あの日は雲ひとつない晴天。雨など降りそうにない青空が澄み渡った。だがノーサイドの笛で、聖地・花園の芝生は濡れていた。敗者の悔し涙で、ではない。勝者が、泣き叫んだ瞬間だった。
 
 前主将の眞野拓也(FL⑥・東海大仰星)が勝利のスタンドあいさつ。両手を突き上げて、ブレザー組に「ありがとう」を告げた。そのとき、森田慎也(FB⑮・洛北)は、グラウンドにうずくまっていた。持てる力、全てを出し切って立ち上がれない―。李智栄(FL⑦・大阪朝鮮)も、充実の表情を浮かべて仲間と抱き合った。集大成―。全員で、やり切った。
 
 FW陣がプレッシャーをかけ続けた「成果」が顕著に出た試合だった。前半は14―19とリードを許すも、神山で培った粘りを発揮する。「押せ押せ」の声とともに、鍛錬を積んだ自慢のモールが炸裂する。動きだすと、止まらない。重戦車・明治が後ずさり。前に押し返すタイミングすら与えなかった。
 
 最後に楕円球を拾い上げたのは現主将の中川将弥(HO②・御所実)だった。今思えば、あの試合は先輩たち「眞野組」から「中川組」への〝イズム継承〟が行われていたのかもしれない。
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相手からボールを拾い上げ、勝利を決めた中川

 トライはすべて、下級生が決めたものだった。約80メートルを激走して、最後のトライを決めたのも坂本英人(WTB⑭・御所実)だった。そのトライを生んだ、目前のタックルは伊藤鐘平(LO④・札幌山の手)が決めていた。「正直、ラグビー人生のなかで、1番うれしい試合でした」。試合後、大一番で果敢なタックルをみせた伊藤が、涙目で語った。


 
 これ以上ないほどの歓喜を味わった直後。主将・眞野は、こう言っていた。
 
 「リーグ戦を落として『自分たちは、このままでは終われない』と思った。お世話になった人、観に来てくれている人に恩返ししたい。『京産大のラグビーを全国の人に見てもらおう』と声を掛け合って、レベルアップしてきた。(明治大を)倒すことで、自分たちのやってきたことを証明したかった」
 
 その瞬間を掴み取れたのは、苦い敗戦があったからだ。こちらも忘れない。2016年9月25日。戦いの舞台は宝ヶ池球技場。誰もが予想できなかった、あまりの悲劇に言葉を失った。

 「京産大31―33同志社」

 不運なジャッジもあり、逆転負け。無惨にもスコアボードには〝現実〟だけが映し出されていた。赤紺は泣いた。言葉にならない音が、ロッカールームから響いてくる。何度も見てきた涙とは、違って見えた。開幕試合だった、この一戦に懸けた思いが伝わってくる。森田が声を絞り出して言った。「元から勝つしかないんです。相手がどんなところだろうと…」。あの敗戦が、あの悔し涙が、彼を成長させた。明治大撃破の直後に言う。「最後のディフェンスは(リーグ初戦の)同志社戦を思い出した。守り切れたのが成長の証です」。
  
 諦めなければ、目標は達成できる。そう教えてくれるのは赤紺戦士だ。卒部式で眞野は語った。「大西先生を胴上げしたかった」。その思いは「中川組」へと託されている。

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眞野(右)から中川へ想いは継承されていく

 今季は、ここまで4連勝で、リーグ戦は残り3つ。明日5日には、今後の行方を左右する同志社戦が待っている。新たな歴史を切り開く、その瞬間を現地で見届けよう―。【前者の戯言】