第36回全日本大学女子駅伝対校選手権大会が10月28日、仙台市(弘進ゴムアスリートパーク~仙台市役所前市民広場・6区間・38.0㌔)で行われた。1区から少しずつ順位を上げて、6位でフィニッシュ。2年ぶりにシード権を獲得した。

 2年ぶりのシード権奪還にも笑顔はなかった。関西女子駅伝で連覇を果たし、本大会の目標は優勝争いと5位以上。シードはとって当たり前。だからこそ今回の結果にも満足はできなかった。

挨拶
挨拶の時に涙を流す主将の棚池

 1区は一昨年この区間で区間賞を獲得している橋本奈津(3年)、3区に3000㍍障害全国3位の実績を持つ信岡桃英(3年)、5区は関西インカレ5000㍍、10000㍍で2年連続2冠を達成してるエースの棚池穂乃香(4年)ら3本柱を主要区間に配置。2区と5区にはトラックと駅伝で力をつけている安井佳苗と安田萌加の1年生コンビ、4区には昨年の経験を買って川戸希望(3年)が配置された。1区の橋本で好スタートを切る予定だったが、思わぬ落とし穴につまずいた。

 当日の仙台は気温が20度前後で日差しも強く、この時期の長距離にとってはやや厳しいコンディション。橋本は脱水症状対策としてスポーツドリンクを口に含んだが、結果としてスタート前に喉の渇きを覚えてしまった。さらに、関西女子駅伝後に小さな故障で練習を抜けたことに対する体力的、精神的な不安が重なり、本来の走りは影を潜めた。序盤こそ先頭でレースを進めるもその後は徐々に後退し、一時は13位まで順位を下げた。それでも学生トップクラスのラストスパートは健在で前方の集団を一気に抜き去り、シード圏内の8位と4秒差の9位で中継所に飛び込んだ。
橋本
2年ぶりに1区を走った橋本


 3位の松山大から18秒後ろ、15位の拓殖大からは15秒前というランナーが点在する位置でタスキを受けた安井は集団の中で持ち前の積極性を発揮した。関西女子駅伝の4区のように追ってくる大学を振り払い、区間6位タイの力走で順位を一つ上げて3区の信岡にタスキを託した。
1区橋本→2区安田
安井が順位をあげる力走

 この駅伝で2年ぶりの出場となる信岡はすぐ目の前に大阪芸大が見える位置で走り出した。全日本インカレの出場を回避してこの駅伝に合わせていて、調子も良かった。序盤こそ中々差が詰まらなかったが、持ち味の後半の強さを活かして大阪芸大をかわし7位に浮上。少しずつだが、前の大院大の姿が大きくなってきた。
3区信岡
2年ぶり出場の信岡が6位に浮上した

 4区の川戸は経験をかわれての起用だったが、昨年のように軽快なピッチは見えず、順位を一つ落とす悔しい結果に。それでも9位との差は広げて棚池へタスキをつないだ。
4区川戸
悔いの残る走りとなってしまった川戸

 7位と7秒差、3位とは1分31秒差の8位でタスキを受けた棚池。ここから巻き返しが期待された。しかし、大阪芸大をかわして7位に浮上した後が苦しい走りに。6位の大学の姿が一向に見えず自らのペースを見失ってしまった。それでも主将の意地をみせ、45秒あった6位の大院大との差を27秒にまで詰めるとともに、9位の東洋大との差を1分07秒にまで広げてシード権を確実なものにした。
5区棚池
棚池は主将として懸命に前を追った

 シード権が確実な中でもアンカーの安田は攻めの走りを見せた。走り出す直前に鞍岡詩歩(3年)から「1年生やし、失うものはなにも、ないんやから笑顔で」という頼もしい言葉を受けて、初の全国へ走り出した。6位の大院大とは27秒の差があったが4㌔手前で追いついてフィニッシュ付近で振り切ると6位でゴール。最後の最後に順位を上げる活躍を見せた。
6区安田
安田が区間3位の力走で6位でフィニッシュ

 今回の結果は嬉しさよりも悔しいという思いが強かった。挨拶の際の棚池の涙が印象的だった。本気で優勝を狙っていたからこそ悔しい思いを感じた。それでもレース全体を通して大きな出入りがなかったのは選手個人の実力が付いた証か。次は12月30日に富士の麓で行われる全日本大学選抜女子駅伝(富士山女子駅伝)。今回よりも1区間増えた全7区間で行われ選手層の厚さが勝負を分ける。今回補欠登録だった堀尾咲月と若井莉央(ともに1年)に加え鞍岡と杉山わかな(2年)も昨年のリベンジを果たしたいところ。
 今後は練習を再び積みなおし、各記録会で個々のタイムを狙う方針。暮れの富士に向けて再スタートを切る。

リザルト
トップとの差は3分。富士山でこの差をどう埋めるか

リザルト
1区(6.4㌔)橋本奈津 21分25秒 区間9位 通過9位
2区(5.6㌔)安井佳苗 18分42秒 区間6位 通過8位
3区(6.8㌔)信岡桃英 23分14秒 区間7位 通過7位
4区(4.8㌔)川戸希望 16分48秒 区間15位 通過8位
5区(9.2㌔)棚池穂乃香 30分41秒 区間5位 通過7位
6区(5.2㌔)安田萌加 17分38秒 区間3位 総合6位

稲原敏弘監督
「(シードを取れて)一安心。6位と7位では大きな違いだからそういう点ではよかったかな。1区の橋本はもうちょっと前でレースを進めると思っていたけどそれもレース。けれどズルズル落ちずに9位まで上げてくれたのはさすが。2区の安井は調子よくて前半の流れを寄せるために起用した。信岡も調子がよかったからもうちょっと行ってもよかったのかなと。5区でいい感じにジャンプアップできなかったけどタイムはジャンプアップできたから大院大との差を詰めて逆転に繋がった。暑かったし全体的に難しいレースだった。アンカーの安田は期待以上。調子はよくて区間5、6番くらい行くと思っていたけどあそこまで行くのは想定外。4区は川戸と若井、堀尾で迷ったけど経験を買って川戸に決めた。今回は全体的に波に乗れなかった。今後はトラックレースで記録を狙いに行く予定。富士山では1区間増えるしもう少し底上げが必要になってくる」

1区橋本奈津
「スポーツドリンクを飲んだ影響でスタートしてすぐに喉が渇いてしまった。そういうことも想定しないと。準備不足。関西女子駅伝の後に少し故障して、5000㍍のレースや長い距離を走らずにここまで来て1発ぶっつけ。1500㍍と違って後半の粘りが大事になると感じた。ラストは3、4校は抜かななー、と思って残り200㍍くらいで切り替えた。よかったのはそこだけ。区間賞も取りたかったし、名城や立命につけなかったのは自分の弱さ。昨年よりは状態はいいけど、昨年が悪すぎただけ。富士山までにしっかり走り込んで4強(名城、大東、立命、東農)にしっかり競り合えるような位置で渡したい。」

2区安井佳苗
「2区に決まったときは憧れている橋本さんにタスキが貰えるということで頑張れそう、と思った。仙台に入ってからどこで粘るかどこでラストスパートをかけるのかを常に意識してきたから落ち着いて走ることが出来た。いいイメージをもって前を追いながら走れた。自分の周りにたくさん他大学がいて1つでも順位を上げたいと思っていた。近くにいた大阪芸大を抜きたいと思っていたけど抜くことが出来なかったのは自分の弱さ。今回シード権を取ることが出来たけど優勝を目指していたから悔しい。これからの2か月間で練習を積んで挑みたい」

3区信岡桃英
「調子が上がっていたからもう少し上でいければよかったけど無難に走っちゃった。今回走れたという点では去年のリベンジが少しは出来たのかなぁ。それでももう少し(いいタイムで)走りたかった。奈津がトップで来る予想してたけど2区出発の時点で連絡を受けていたからスタートは焦ることなく出れた。一人は絶対抜こうと思っていた。22分台に入りたかった。去年の富士山は脚の痛みでつなぎ区間に回ってしまって。今年は3年生だから重要区間を走って仙台の悔しい思いを晴らしたい」

4区川戸希望
「1年生の勢いがすごくて自分にも刺激になった。今回の結果を受け止めて自分の強さに変えていけたらと思う。4区は去年も経験しているからその経験を活かして自分らしく走ること、自分の役目をしっかり果たしていい流れを持っていきたいと考えていた。走り出して前の選手を抜かすことを考えていたけど、離れているのが目に見えて分かったから焦って動きが硬くなってしまった。そこが悔しい。チームに申し訳ない。富士山は自分の得意な走りをしっかりしていい締めくくりに出来たらと思う。1つでも上の順位に行きたい」

5区棚池穂乃香
「悔いはないと思っていたけど心の中では悔しくって涙が出てくる。もっと上で戦えると思っていた。区間賞を狙っていたし悔しい。もっと安田に楽に走らせてあげたかったけど、出来なかったことも悔しい。前との差が開きすぎてペース感覚が分からなくなって最初突っ込んで走ったけど後半がしんどかった。シードをとって少しだけホッとしたけど悔しさしかない。富士山ではもっと上を目指して、個人でも区間賞を狙う。関西女子でも優勝してるし、やってきたことは間違いないはず」

6区安田萌加
「アンカーに選ばれたときはプレッシャーもあったけど、ゴールテープを切れるということで楽しみもあった。走る前に稲原監督からじわじわ前詰めていけたら、焦らず少しでも前にと指示があった。最初から前だけ見て走った。4㌔手前で大院大を抜かしたけど、食いついてこられてヤバいな、と思った。最後しんどさがあって抜かされる怖さがあった」

北野詩織主務
「最低限の結果。選手たちは優勝を目指していたけど、4強をくずせなかった。シード圏内よりいい位置で走れて、どの区間でもラスト1㌔をしっかり走るという指示を受けてそれが出来た。橋本は集団が見える位置で来てくれて駅伝の鉄則を守ってくれた。安田もラスト1㌔を上げたり勢いに乗ることが出来た。全体的な流れとしては駅伝の鉄則を守れていい意味でワクワク。レース前の全体練習もできていて最後まで4区は誰を使うか悩んでいたくらい。メンバー入りした8人は誰を使おうか、誰も使いたいと思っていた。それだけ仕上がりは良かったけど、全国の厳しさを味わった。富士山は適材適所の配置がカギになる。アップダウンがあったらうちにも分がある」