オレンジのユニフォームに身を包み、獅子奮迅の如くコートを支配する。関西バスケットボールの雄、京産大。関西リーグでは最多となる23回の優勝。全日本インカレは現在9年連続50回の出場で、1997年には、同志社大と並び関西勢最高成績となる準優勝を果たしている。今回はその名門・京産大で今季の主将を務める宇都宮陸と、就任17年目となる村上和之監督に取材し、ここまでの道のり、そして今季への思いを聞いた。
プロフィール
【宇都宮 陸(うつのみや・りく)】
2002年12月6日、愛媛県生まれ。報徳学園高卒。ポジションはPG。1年次には全日本インカレで全試合スタメン出場しベスト8に貢献。2年次には男子日本学生選抜メンバー選出、西日本インカレ優秀賞・アシスト王、関西リーグ戦敢闘賞。3年次には関西リーグ戦敢闘賞。また、1年次に愛媛オレンジバイキングス(B2)、2年次にアルバルク東京(B1)に特別指定選手として加入。今期の主将を務める。
【村上 和之(むらかみ・かずゆき)】
1976年7月10日、大阪府生まれ。東住吉総合高、京都産大卒。大学3年次に、全日本インカレ準優勝し、自身は大会ベスト5にも選出。大学卒業後、日本リーグの実業団「日立大阪」に入社、その後2005年発足のbjリーグに入団。3年間プロ選手として活躍。引退後、京産大バスケットボール部男子のコーチに就任(2008~)。現役時代のポジションはPG。愛称は「カズさん」。
悔しい一年
「タイトルを一つも取れていないっていうところで、悔しいなという思いがあります」。宇都宮は昨シーズンを振り返る。春の関西選手権(関西学生連盟に所属する全大学によるトーナメント戦)、夏の西日本インカレではともに準々決勝で敗退。2年ぶりの優勝を目指し挑んだ秋のリーグ戦では、大阪経済大や関西学院大などの1部下位チームとの試合を落としたことが響き、一歩届かず準優勝。集大成となる12月の全日本インカレでは関東1部リーグ13位の早稲田大に敗れ、3年ぶりの初戦敗退となった。「もうちょっとできたんじゃないかな(村上)」。監督にとっても満足のいかないシーズンとなった。
《2023年度関西連盟主催大会における成績》
・4月 関西選手権大会 6位
・6月 西日本インカレ 3回戦敗退
・9月 関西リーグ戦 準優勝
群雄割拠
関西連盟の大会においては、昨年だけでなく一昨年も優勝した大会がなく、長らくタイトルから遠ざかっている。その背景に、関西の勢力図の変化がある。ここ数年は京産大・近畿大・天理大の三強で、直近20年のリーグ戦は近大が8度、京産大が6度、天理大が4度と、ほぼ独占状態。他の関西の大会でも表彰台の常連となっていた。
そんな中、長らく1部の下位に位置していた神戸医療未来大が2022年度の関西新人戦(3年次以下のみが出場できる大会)で優勝すると、同年のリーグ戦では近大、京産大に次いで3位に。そして昨年は神医大と同じく、決して強豪とは言えなかった大阪産業大がリーグ初優勝を果たしている。関西地区は強豪同士の覇権争いから一転し、群雄割拠となった。
名門の矜持
新興勢力の台頭が、三強時代に終わりを告げた。実際に近大は昨年のリーグで7位となり、6年連続出場中のインカレへの切符を逃している。もちろん京産大も例外ではなく、その勢いの餌食となりつつある現状だ。ただ、「周りのチームは関係ない。自分たちのすべきことをするだけ」と宇都宮。村上監督も「そういう(新勢力の)チームに簡単に勝たせてはいけない」と言い放つ。選手、監督ともに京産大の軸には「名門の矜持」があった。
宇都宮世代
2024シーズンはまもなく開幕。主将を中心に4年次生がチームを引っ張ることとなる。村上監督はこの世代の強みに「華やかさ」と「経験」の二つを挙げる。
自身も京産大バスケットボール部の選手であった監督曰く、昔はねちっこく、泥臭く、というイメージで見られていた京産大。かつてとはプレーの華やかさや注目度が変わってきたという。しかし監督はこうも付け加える。「今も(ねちっこく、泥臭く、といった精神が)無いわけじゃないです。華やかな部分もあるけど、そこだけじゃなくて泥臭くもあるよっていうのを僕は見てほしいですね」。地味ではあるが、かつての京産大の重要な精神が根底には残っている、ということを強調した。
「華やかさ」と「経験」がこの世代の強みだと話す監督
また、この世代には経験豊富な役者が揃っている。Bリーグの特別指定加入としてプロの世界でプレーをした宇都宮を筆頭に、1年次から全日本の舞台に立ったアジャイ・アーノルド(4)。そして昨年開催された第19回アジア競技大会で、モンゴル代表に選出されたヒシグバータル・オーギル(3)を初め、3年次以下の選手層も厚く、全体的に経験値の高いチームとなっている。
そして最高学年に限っては、なんといっても京産大の栄枯盛衰を直接見てきている世代といえる。今の4年次が入部した年は、関西リーグを全勝優勝。全日本インカレでは関東の強豪専修大に善戦し惜しくも敗れるもベスト8と、輝かしいスタートを切った。しかしそこから一昨年、昨年と関西連盟主催大会での優勝は一つもなく、苦しいシーズンが続いている。
「こういう経験をしたのが陸の学年しかいない。過去でこれをやってきたから今があるっていうのを(宇都宮の学年が)今年後輩たちに伝えないといけない立場に来ている」。今までの壮絶な道のりと、京産大としてのプライドを後輩へ示すことが、監督から最高学年に対しての願いだ。
アジャイ・アーノルド
ヒシグバータル・オーギル
黄金時代
この取材の前に、村上監督の選手時代のアスレチックの紙面を見つけた。京産大アスレチック第102号(1997年発行)、「バスケットボール部6連覇 掴んだ関西16度目の栄光」という見出しで、1面にでかでかと取り上げられている。その一コマに「果敢に敵陣内に切り込むPG村上」と、当時3年次だった監督の姿もあった。また、この年には全日本インカレで関西勢最高成績の準優勝も果たしている。紙面からもわかる通り、関西での連覇や全日本準優勝など、当時はまさに京産大黄金時代。「今まで(全日本インカレが)75回あって関西勢が優勝したことが無くて、僕らの1997年の準優勝が最高記録なんで、今期は優勝したいなと思っています」。今期の世代を、現在低迷中の京産大の再出発地点とし、第二期黄金時代の幕開けを目指す。
1997年発行 京産大アスレチック第102号
選手時代の監督の姿も
全タイトルへ
「全タイトルを獲る」。新主将が掲げる今季のチーム目標だ。その目標を完遂するための第一歩となる春の関西選手権はすぐそこまで来ている。関西屈指の名門の誇りを再び見せつけるとともに、関西勢未踏の全国制覇を目指し、京産大バスケットボール部男子が今シーズンに臨む。
[取材・記事]榎本祐一郎 [写真]大道莉和
プロフィール
【宇都宮 陸(うつのみや・りく)】
2002年12月6日、愛媛県生まれ。報徳学園高卒。ポジションはPG。1年次には全日本インカレで全試合スタメン出場しベスト8に貢献。2年次には男子日本学生選抜メンバー選出、西日本インカレ優秀賞・アシスト王、関西リーグ戦敢闘賞。3年次には関西リーグ戦敢闘賞。また、1年次に愛媛オレンジバイキングス(B2)、2年次にアルバルク東京(B1)に特別指定選手として加入。今期の主将を務める。
【村上 和之(むらかみ・かずゆき)】
1976年7月10日、大阪府生まれ。東住吉総合高、京都産大卒。大学3年次に、全日本インカレ準優勝し、自身は大会ベスト5にも選出。大学卒業後、日本リーグの実業団「日立大阪」に入社、その後2005年発足のbjリーグに入団。3年間プロ選手として活躍。引退後、京産大バスケットボール部男子のコーチに就任(2008~)。現役時代のポジションはPG。愛称は「カズさん」。
悔しい一年
「タイトルを一つも取れていないっていうところで、悔しいなという思いがあります」。宇都宮は昨シーズンを振り返る。春の関西選手権(関西学生連盟に所属する全大学によるトーナメント戦)、夏の西日本インカレではともに準々決勝で敗退。2年ぶりの優勝を目指し挑んだ秋のリーグ戦では、大阪経済大や関西学院大などの1部下位チームとの試合を落としたことが響き、一歩届かず準優勝。集大成となる12月の全日本インカレでは関東1部リーグ13位の早稲田大に敗れ、3年ぶりの初戦敗退となった。「もうちょっとできたんじゃないかな(村上)」。監督にとっても満足のいかないシーズンとなった。
《2023年度関西連盟主催大会における成績》
・4月 関西選手権大会 6位
・6月 西日本インカレ 3回戦敗退
・9月 関西リーグ戦 準優勝
群雄割拠
関西連盟の大会においては、昨年だけでなく一昨年も優勝した大会がなく、長らくタイトルから遠ざかっている。その背景に、関西の勢力図の変化がある。ここ数年は京産大・近畿大・天理大の三強で、直近20年のリーグ戦は近大が8度、京産大が6度、天理大が4度と、ほぼ独占状態。他の関西の大会でも表彰台の常連となっていた。
そんな中、長らく1部の下位に位置していた神戸医療未来大が2022年度の関西新人戦(3年次以下のみが出場できる大会)で優勝すると、同年のリーグ戦では近大、京産大に次いで3位に。そして昨年は神医大と同じく、決して強豪とは言えなかった大阪産業大がリーグ初優勝を果たしている。関西地区は強豪同士の覇権争いから一転し、群雄割拠となった。
名門の矜持
新興勢力の台頭が、三強時代に終わりを告げた。実際に近大は昨年のリーグで7位となり、6年連続出場中のインカレへの切符を逃している。もちろん京産大も例外ではなく、その勢いの餌食となりつつある現状だ。ただ、「周りのチームは関係ない。自分たちのすべきことをするだけ」と宇都宮。村上監督も「そういう(新勢力の)チームに簡単に勝たせてはいけない」と言い放つ。選手、監督ともに京産大の軸には「名門の矜持」があった。
宇都宮世代
2024シーズンはまもなく開幕。主将を中心に4年次生がチームを引っ張ることとなる。村上監督はこの世代の強みに「華やかさ」と「経験」の二つを挙げる。
自身も京産大バスケットボール部の選手であった監督曰く、昔はねちっこく、泥臭く、というイメージで見られていた京産大。かつてとはプレーの華やかさや注目度が変わってきたという。しかし監督はこうも付け加える。「今も(ねちっこく、泥臭く、といった精神が)無いわけじゃないです。華やかな部分もあるけど、そこだけじゃなくて泥臭くもあるよっていうのを僕は見てほしいですね」。地味ではあるが、かつての京産大の重要な精神が根底には残っている、ということを強調した。
「華やかさ」と「経験」がこの世代の強みだと話す監督
また、この世代には経験豊富な役者が揃っている。Bリーグの特別指定加入としてプロの世界でプレーをした宇都宮を筆頭に、1年次から全日本の舞台に立ったアジャイ・アーノルド(4)。そして昨年開催された第19回アジア競技大会で、モンゴル代表に選出されたヒシグバータル・オーギル(3)を初め、3年次以下の選手層も厚く、全体的に経験値の高いチームとなっている。
そして最高学年に限っては、なんといっても京産大の栄枯盛衰を直接見てきている世代といえる。今の4年次が入部した年は、関西リーグを全勝優勝。全日本インカレでは関東の強豪専修大に善戦し惜しくも敗れるもベスト8と、輝かしいスタートを切った。しかしそこから一昨年、昨年と関西連盟主催大会での優勝は一つもなく、苦しいシーズンが続いている。
「こういう経験をしたのが陸の学年しかいない。過去でこれをやってきたから今があるっていうのを(宇都宮の学年が)今年後輩たちに伝えないといけない立場に来ている」。今までの壮絶な道のりと、京産大としてのプライドを後輩へ示すことが、監督から最高学年に対しての願いだ。
アジャイ・アーノルド
ヒシグバータル・オーギル
黄金時代
この取材の前に、村上監督の選手時代のアスレチックの紙面を見つけた。京産大アスレチック第102号(1997年発行)、「バスケットボール部6連覇 掴んだ関西16度目の栄光」という見出しで、1面にでかでかと取り上げられている。その一コマに「果敢に敵陣内に切り込むPG村上」と、当時3年次だった監督の姿もあった。また、この年には全日本インカレで関西勢最高成績の準優勝も果たしている。紙面からもわかる通り、関西での連覇や全日本準優勝など、当時はまさに京産大黄金時代。「今まで(全日本インカレが)75回あって関西勢が優勝したことが無くて、僕らの1997年の準優勝が最高記録なんで、今期は優勝したいなと思っています」。今期の世代を、現在低迷中の京産大の再出発地点とし、第二期黄金時代の幕開けを目指す。
1997年発行 京産大アスレチック第102号
選手時代の監督の姿も
全タイトルへ
「全タイトルを獲る」。新主将が掲げる今季のチーム目標だ。その目標を完遂するための第一歩となる春の関西選手権はすぐそこまで来ている。関西屈指の名門の誇りを再び見せつけるとともに、関西勢未踏の全国制覇を目指し、京産大バスケットボール部男子が今シーズンに臨む。
[取材・記事]榎本祐一郎 [写真]大道莉和