第101回 関西学生サッカーリーグ(後期)
第11節 関学大戦(2023年11月12日)
ついに今季リーグ最終戦。最後の最後まで優勝が決まらない関西1部、京産大と関西大に優勝候補が絞られる中、京産大が2連覇の王者・関学大を破り初優勝の栄冠を掴み取った。

【スターティングメンバー】
1 GK 山本 透衣(4年=コンサドーレ札幌U18・FC大阪内定)
16 DF 大串 昇平(3年=ガンバ大阪ユース)
5 DF 横窪 皇太(3年=金光大阪高)
4 DF 西村 翔(4年=ガンバ大阪ユース)
2 DF 西矢 慎平(4年=神戸弘陵学園高・カターレ富山内定)
6 MF 川上 陽星(4年=作陽高)
32 MF 伊藤 翼(1年=セレッソ大阪U18)
7 MF 福井 和樹(4年=ガンバ大阪ユース・SC相模原内定)
10 MF 食野 壮磨(4年=ガンバ大阪ユース・東京ヴェルディ内定)
11 MF 夏川 大和(4年=草津東高)
13 FW 中田 樹音(3年=岡山学芸館高)
【サブメンバー】
12 GK 林 憲太朗(3年=滝川第二高)
3 DF 佐藤 幸生(4年=サンフレッチェ広島ユース)
25 DF 楠瀬 海(3年=高知高)
33 DF 小野成夢(1年=愛媛FC U-18)
15 MF 石原 央羅(3年=サガン鳥栖U-18)
28 MF 滝口 晴斗(1年=サンフレッチェ広島ユース)
29 MF 末谷 誓梧(1年=セレッソ大阪U-18)
14 MF 城水晃太(3年=サンフレッチェ広島ユース)
8 FW 中野 歩(4年=ガンバ大阪ユース)
【交代】
後半36分
▲中野歩▼中田樹音
▲城水晃太▼食野壮磨
後半42分
▲滝口晴斗▼大串昇平
後半ロスタイム
▲石原央羅▼夏川大和
【スコア】
前半 0-1
後半 2-0
結果 2-1
【試合内容】
残り30秒、掴みかけた優勝トロフィーが手から溢れ落ちた。前節の関西大戦、勝てば優勝が決まる大一番を迎えた京産大。前半29分、CKの混戦から西村が得点をもぎ取り、1-0で試合を折り返した。後半は終始相手の猛攻を受け続ける時間が続く中、隙を1ミリも見せず守備陣を中心に跳ね返し続ける。しかし、後半ロスタイム。時計は目安の5分頃、浮き玉をゴール前に送られるとGKと逆方向に撃ち込まれて失点。1-1に追いつかれ試合終了を迎えた。優勝が途絶えた訳ではないが、あと僅かに迫った優勝がまた少し遠ざかり、チームは悔しさに包まれていた。泣いても笑っても次節で全てが決まる。相手は去年、一昨年王者の関学大。直近4年間の1部所属チームで唯一白星を挙げていない相手だ。初優勝をするために1つ1つパズルのピースを埋めるように勝利を重ねてきた今季、最後のラストピースを埋めるべく最終戦を迎えた。

舞台は舞洲。海が近く時折風が吹き、冷たい雨が降るコンディション。気候とは裏腹に熱くアップを行うチーム、今節はゴール裏に用意された応援席からもチャントが飛び交う。これから戦う90分で最高のパフォーマンスを発揮するために真剣に準備を重ねる。

アップを終え、スタメン11名がユニフォームに着替えてピッチに再び現れる。「顔つきも変化してきた」と古井総監督。前期最終節から一度も順位を落とすことなく首位に居続けた京産大。ピッチに向かう表情は凛々しく、自信に溢れる戦士の目つき。ここまでの数字や成績が自信となり、漂う風格に結びついている。

今季最後のリーグ戦、関西での試合。スタメンはGK山本、DF大串・横窪・西村・西矢、MF川上・伊藤・福井・食野・夏川、FW中田と今季多くの試合でスタメン出場をしてきた経験豊富なメンバーが並んだ。その中でも4年次生がスタメンに7名、ベンチにも2名名前を連ねた。「この先の京産大に残るものを創り出す」と意識しピッチ内外でチームを牽引し続けた4年次生。31年ぶりインカレ出場の歓喜、コロナでサッカーができない苦しさ。喜び、悔しさ、様々な感情を味わい続けた。ここまで78試合、この関西リーグで成長を続けてきた4年間。まずは関西の集大成を見せるべく試合に挑む。

試合開始直前。いつの間にか、雨も止んだ。会場には学生リーグ所属大学や両チームを応援する方々や家族が応援に駆けつけ、いつもよりも多い視線がピッチに降り注ぐ。優勝するのは京産大か、関西大か。101回大会の結末を決める試合がキックオフ。慎重な立ち上がり、常にボールを保持できなくとも冷静に得点機を伺う。しかし、前を向き仕掛けようとしても相手の中盤に刈り取られ、福井・夏川の両サイドからの仕掛けが思うように通用しない場面が多々見られた。難しい状況でピッチを指揮するのは食野。ひとつのパスで相手の守備を突破し攻撃の形を描く。関西1部の選手たちからもどよめきが起こる。食野を中心に右サイドの大串・福井のガンバトリオが阿吽の呼吸で守備を掻き回す。3人で細かく繋ぐと最後は福井がシュートまで持ち込む。枠は捉えられなくても相手に通用する1つの形を作り出す。

前半も残り時間が少なくなってきた。一進一退の攻防が続き、スコアレスで折り返すと思われたが、速いカウンターを受ける。左から右へと大きく揺さぶられると最後はGKと逆方向に仕留められ失点。前半終盤、痛恨の失点。今季、先制点を許した試合で勝利を挙げることができたのは1試合のみ。「先制点が大事になる」と川上も話していたように、京産大の勝利の方程式は先制点を奪うこと。しかし、新たな王者になるには新たな方程式が必要。1-0をひっくり返すために残りの45分を迎えた。

後半の立ち上がりはリズミカルに攻撃を組み立て、相手ゴールに襲いかかる。まずは1点を追いつき試合を振り出しに戻す。起死回生の同点弾を生んだのは、やはり10番だった。相手がクリアしたボールは主将の前に転がった。ここぞという時、チームに勢いをもたらす得点を決め続けてきた食野。自他共に認める努力家の右足で振り抜くとゴールネットに突き刺さった。後半の立ち上がりに追いつく、値千金の同点弾。真っ先にベンチに向かいハグを交わす。京産大の優勝条件は引き分け以上。追いついたことにより、優勝が近づいた。しかし、目指すは白星のみ。勝利を掴むための追加点を奪うために切り替えて、残りの時間に挑む。

後半は守備陣の活躍が目立った。CBの西村、横窪が身体を張って空中戦を制し、相手のクロスボールを対処しシュートを打たせない。最後尾に立つ山本は好セーブを連発。「少しのミスで失点してしまうのが悔しい」と今季クリーンシートに抑えたのは5試合。悔しさを抱えながら、もがいて鍛錬を重ねてきた守護神がこれまでの悔しさを晴らすように、鮮やかなセーブで会場を魅了する。パンチング、キャッチ、長い腕を存分に伸ばしてセーブ。観客席から感嘆の声が山本に降り注ぐ。「自分が失点しなかったらこのチームは勝てる」(山本)。これ以上の失点は俺が許さない、あとは前線の選手に勝利を託すと言わんばかりのプレーを披露。ピッチ内に好プレーの波は伝染する。守備陣が好プレーを見せると、次は攻撃陣へ。それぞれの立場から勝利を掴むためのプレーを選択し相手を揺さぶり続ける。

後半36分に食野と中田を代えて城水と中野が投入された。前線にフレッシュな選手を入れ、活性化させる。キャプテンマークを引き継いだのは川上。誰よりも勝利へ熱い思いを持つ主将の想いはピッチに残ったまま。「全員で優勝を」時間も残り少なくなってきた。後半43分、劇的な瞬間が訪れる。
左サイドの夏川が送ったクロスボール、一瞬の静寂の後に聞こえてきたのは歓喜の声。クロスボールがオウンゴールを誘発し、試合終盤の劇的な逆転ゴールを生んだ。もみくちゃになり喜びを爆発させるチーム。大きな大きな追加点、あとは守り抜くだけ。前節の悔しい引き分けを経験したチームに隙はない。リーグ終盤で身体もボロボロの状況で気持ちを全面に出してゴールを守り続ける11人。ロスタイムも目安の時間を過ぎる頃、ベンチでは祈るように試合を見つめる食野の姿があった。相手のクロスボールがゴールラインを割った。運命の時が近づく。ボールをセットし数歩後ろに下がる。助走をつけて山本が大きくボールを蹴った瞬間、長く待ち侘びた笛が鳴った。2-1、京産大の創部初優勝を告げる笛がピッチに大きく響き渡った。

優勝が決まった瞬間、チームの目は涙で光っていた。スタッフ陣も一緒になり、喜びを噛み締める中、食野は立ち上がることができず腕で目を覆っていた。吉川監督に起こされたその目には涙。優勝するために京産大に入学してきたと東京V内定会見で古井総監督が話した通り、1年次生から試合に出続け主力として、京産大の看板選手として戦ってきた4年間。「入学してほんまに色々苦しいこととかきついことが多かった中で4年目の最後で優勝っていう最高な結果」。初めて見せた涙に思いがこもっていた。

直後には閉会式が開催され、賞状、盾、トロフィーを主将陣が受け取った。その後に続いて最優秀監督賞が発表。吉川監督の名前が呼ばれると誇らしげに拍手がチームから送られる。京産大を卒業後はカターレ富山などでプレーし、育成年代のコーチも務めた経験豊富な吉川監督。昨年度、京産大に12年ぶりにコーチとして帰ってくると、今季から監督に就任。開幕前に話したことは「京産大のエンブレムに価値を持たせたい」ということだった。強豪校のエンブレムを見れば「〇〇大のサッカー部」と分かるように、京産大のサッカー部のエンブレムを多くの人に知ってもらう。そして、在籍した部員、卒業した部員がサッカー部に誇りを持てるようにと躍進し続けた結果、就任1年目でリーグ優勝という偉業を成し遂げた。試合終了直後、古井総監督と吉川監督が抱き合っていた。在学当時は監督と選手の関係性だったが、今は2人ともチームの舵取りをする立場。しかし、目に涙を溜めて抱き合う姿は教え子と監督の姿に見えた。選手だけでなく、コーチ陣にとっても悲願の優勝だった。

表彰式を終え、トロフィーらを手に抱えて主将陣が戻ってくるとトロフィーリフトが行われた。食野、佐藤、古井総監督が掲げる中、石原が掲げると恒例(?)の周囲は無反応をみせ爆笑する一面も。その後に選手らは続々とコーチ陣の元へ駆け寄ると胴上げ。古井総監督と吉川監督、時久コーチが歓喜のウォーターシャワーと共に3回宙に舞った。

チームは続々と最高です!とコメントを残した。ここまでたどり着くために無駄だったものはひとつもない。京都選手権、関西選手権の敗戦、歓喜の7連勝、残りワンプレーの悲劇。全てはこの日を迎えるために必要だった試練。流した涙は地面に染み込むだけでなく、自身を再び奮い立たせるパワーになっていた。とっぷり夜に染まった舞洲の空にカンピオーネの歌声が響く。新たに手にした関西1位の称号と共に京都へと戻る。さあ行こうぜどこまでも 走り出せ 走り出せ 輝く俺たちの誇り京産。次に目指すは日本一、信頼する仲間たちと共にその瞬間が来るまで足を止めない。【福田明音】

「📸ゴール裏から 番外編」
初めて京産大のサッカーを見たのは2020年10月18日の関学大戦。初めて取材をしたのは食野選手。優勝を決める大一番、関学大と対戦し食野選手が復活の同点弾を決めて初優勝に輝く。巡り合わせを感じる1日でした。振り返れば、リーグ59試合を取材。毎週末試合に足を運んで、平日は写真整理と執筆に追われる。「もっと遊んだらいいのに」と言われることもありましたが、何よりも彼らの軌跡を記録することが楽しかった。シーズン中はパソコンとにらめっこする日々が幸せで、いつかを夢見てがむしゃらに活動してきました。悔しくて涙が溢れた試合も、嬉しくて帰り道スキップしちゃうような試合も、全てはこの日のためだと心底感じる1日でした。2023年11月12日、日本で1番幸せな学生記者だったんじゃないかなと思います。2023年12月24日、もう一度トロフィーを掲げるその時まで、担当記者を務めさせてください。初優勝、おめでとうございます!(福田明音)
【試合後のコメント】
主将 食野壮磨選手
最高です。ラストワンプレーぐらいから急に涙が込み上げてきて、グッときた感じ。入学してほんまに色々苦しいこととかきついことが多かった中で4年目の最後で優勝っていう最高な結果
副将 川上陽星選手
みんなの力で勝てて嬉しいです。プレッシャーもあったんですけど、それに打ち勝てる実力が僕たちにはあったので、それをこのピッチで体現できたことが優勝に繋がったかと思う。取り組みが実った優勝かな。
副将 佐藤幸生選手
最高ですね。とりあえず願うことしかできなかった。途中で出ないってなってからは願うことしかできなかったので、ずっと願ってました。ここまで結果出たのも1月から始まったきつい練習とかがあったおかげやし、きつい時もみんなでポジティブにやれたっていうのがいちばんの要因やと思う。サッカーが上手いとか下手とかじゃなくて、ポジティブにどんなきつい練習も取り組めたっていうのが優勝に繋がったかなって思います。
第11節 関学大戦(2023年11月12日)
ついに今季リーグ最終戦。最後の最後まで優勝が決まらない関西1部、京産大と関西大に優勝候補が絞られる中、京産大が2連覇の王者・関学大を破り初優勝の栄冠を掴み取った。

【スターティングメンバー】
1 GK 山本 透衣(4年=コンサドーレ札幌U18・FC大阪内定)
16 DF 大串 昇平(3年=ガンバ大阪ユース)
5 DF 横窪 皇太(3年=金光大阪高)
4 DF 西村 翔(4年=ガンバ大阪ユース)
2 DF 西矢 慎平(4年=神戸弘陵学園高・カターレ富山内定)
6 MF 川上 陽星(4年=作陽高)
32 MF 伊藤 翼(1年=セレッソ大阪U18)
7 MF 福井 和樹(4年=ガンバ大阪ユース・SC相模原内定)
10 MF 食野 壮磨(4年=ガンバ大阪ユース・東京ヴェルディ内定)
11 MF 夏川 大和(4年=草津東高)
13 FW 中田 樹音(3年=岡山学芸館高)
【サブメンバー】
12 GK 林 憲太朗(3年=滝川第二高)
3 DF 佐藤 幸生(4年=サンフレッチェ広島ユース)
25 DF 楠瀬 海(3年=高知高)
33 DF 小野成夢(1年=愛媛FC U-18)
15 MF 石原 央羅(3年=サガン鳥栖U-18)
28 MF 滝口 晴斗(1年=サンフレッチェ広島ユース)
29 MF 末谷 誓梧(1年=セレッソ大阪U-18)
14 MF 城水晃太(3年=サンフレッチェ広島ユース)
8 FW 中野 歩(4年=ガンバ大阪ユース)
【交代】
後半36分
▲中野歩▼中田樹音
▲城水晃太▼食野壮磨
後半42分
▲滝口晴斗▼大串昇平
後半ロスタイム
▲石原央羅▼夏川大和
【スコア】
前半 0-1
後半 2-0
結果 2-1
【試合内容】
残り30秒、掴みかけた優勝トロフィーが手から溢れ落ちた。前節の関西大戦、勝てば優勝が決まる大一番を迎えた京産大。前半29分、CKの混戦から西村が得点をもぎ取り、1-0で試合を折り返した。後半は終始相手の猛攻を受け続ける時間が続く中、隙を1ミリも見せず守備陣を中心に跳ね返し続ける。しかし、後半ロスタイム。時計は目安の5分頃、浮き玉をゴール前に送られるとGKと逆方向に撃ち込まれて失点。1-1に追いつかれ試合終了を迎えた。優勝が途絶えた訳ではないが、あと僅かに迫った優勝がまた少し遠ざかり、チームは悔しさに包まれていた。泣いても笑っても次節で全てが決まる。相手は去年、一昨年王者の関学大。直近4年間の1部所属チームで唯一白星を挙げていない相手だ。初優勝をするために1つ1つパズルのピースを埋めるように勝利を重ねてきた今季、最後のラストピースを埋めるべく最終戦を迎えた。

舞台は舞洲。海が近く時折風が吹き、冷たい雨が降るコンディション。気候とは裏腹に熱くアップを行うチーム、今節はゴール裏に用意された応援席からもチャントが飛び交う。これから戦う90分で最高のパフォーマンスを発揮するために真剣に準備を重ねる。

アップを終え、スタメン11名がユニフォームに着替えてピッチに再び現れる。「顔つきも変化してきた」と古井総監督。前期最終節から一度も順位を落とすことなく首位に居続けた京産大。ピッチに向かう表情は凛々しく、自信に溢れる戦士の目つき。ここまでの数字や成績が自信となり、漂う風格に結びついている。

今季最後のリーグ戦、関西での試合。スタメンはGK山本、DF大串・横窪・西村・西矢、MF川上・伊藤・福井・食野・夏川、FW中田と今季多くの試合でスタメン出場をしてきた経験豊富なメンバーが並んだ。その中でも4年次生がスタメンに7名、ベンチにも2名名前を連ねた。「この先の京産大に残るものを創り出す」と意識しピッチ内外でチームを牽引し続けた4年次生。31年ぶりインカレ出場の歓喜、コロナでサッカーができない苦しさ。喜び、悔しさ、様々な感情を味わい続けた。ここまで78試合、この関西リーグで成長を続けてきた4年間。まずは関西の集大成を見せるべく試合に挑む。

試合開始直前。いつの間にか、雨も止んだ。会場には学生リーグ所属大学や両チームを応援する方々や家族が応援に駆けつけ、いつもよりも多い視線がピッチに降り注ぐ。優勝するのは京産大か、関西大か。101回大会の結末を決める試合がキックオフ。慎重な立ち上がり、常にボールを保持できなくとも冷静に得点機を伺う。しかし、前を向き仕掛けようとしても相手の中盤に刈り取られ、福井・夏川の両サイドからの仕掛けが思うように通用しない場面が多々見られた。難しい状況でピッチを指揮するのは食野。ひとつのパスで相手の守備を突破し攻撃の形を描く。関西1部の選手たちからもどよめきが起こる。食野を中心に右サイドの大串・福井のガンバトリオが阿吽の呼吸で守備を掻き回す。3人で細かく繋ぐと最後は福井がシュートまで持ち込む。枠は捉えられなくても相手に通用する1つの形を作り出す。

前半も残り時間が少なくなってきた。一進一退の攻防が続き、スコアレスで折り返すと思われたが、速いカウンターを受ける。左から右へと大きく揺さぶられると最後はGKと逆方向に仕留められ失点。前半終盤、痛恨の失点。今季、先制点を許した試合で勝利を挙げることができたのは1試合のみ。「先制点が大事になる」と川上も話していたように、京産大の勝利の方程式は先制点を奪うこと。しかし、新たな王者になるには新たな方程式が必要。1-0をひっくり返すために残りの45分を迎えた。

後半の立ち上がりはリズミカルに攻撃を組み立て、相手ゴールに襲いかかる。まずは1点を追いつき試合を振り出しに戻す。起死回生の同点弾を生んだのは、やはり10番だった。相手がクリアしたボールは主将の前に転がった。ここぞという時、チームに勢いをもたらす得点を決め続けてきた食野。自他共に認める努力家の右足で振り抜くとゴールネットに突き刺さった。後半の立ち上がりに追いつく、値千金の同点弾。真っ先にベンチに向かいハグを交わす。京産大の優勝条件は引き分け以上。追いついたことにより、優勝が近づいた。しかし、目指すは白星のみ。勝利を掴むための追加点を奪うために切り替えて、残りの時間に挑む。

後半は守備陣の活躍が目立った。CBの西村、横窪が身体を張って空中戦を制し、相手のクロスボールを対処しシュートを打たせない。最後尾に立つ山本は好セーブを連発。「少しのミスで失点してしまうのが悔しい」と今季クリーンシートに抑えたのは5試合。悔しさを抱えながら、もがいて鍛錬を重ねてきた守護神がこれまでの悔しさを晴らすように、鮮やかなセーブで会場を魅了する。パンチング、キャッチ、長い腕を存分に伸ばしてセーブ。観客席から感嘆の声が山本に降り注ぐ。「自分が失点しなかったらこのチームは勝てる」(山本)。これ以上の失点は俺が許さない、あとは前線の選手に勝利を託すと言わんばかりのプレーを披露。ピッチ内に好プレーの波は伝染する。守備陣が好プレーを見せると、次は攻撃陣へ。それぞれの立場から勝利を掴むためのプレーを選択し相手を揺さぶり続ける。

後半36分に食野と中田を代えて城水と中野が投入された。前線にフレッシュな選手を入れ、活性化させる。キャプテンマークを引き継いだのは川上。誰よりも勝利へ熱い思いを持つ主将の想いはピッチに残ったまま。「全員で優勝を」時間も残り少なくなってきた。後半43分、劇的な瞬間が訪れる。
左サイドの夏川が送ったクロスボール、一瞬の静寂の後に聞こえてきたのは歓喜の声。クロスボールがオウンゴールを誘発し、試合終盤の劇的な逆転ゴールを生んだ。もみくちゃになり喜びを爆発させるチーム。大きな大きな追加点、あとは守り抜くだけ。前節の悔しい引き分けを経験したチームに隙はない。リーグ終盤で身体もボロボロの状況で気持ちを全面に出してゴールを守り続ける11人。ロスタイムも目安の時間を過ぎる頃、ベンチでは祈るように試合を見つめる食野の姿があった。相手のクロスボールがゴールラインを割った。運命の時が近づく。ボールをセットし数歩後ろに下がる。助走をつけて山本が大きくボールを蹴った瞬間、長く待ち侘びた笛が鳴った。2-1、京産大の創部初優勝を告げる笛がピッチに大きく響き渡った。

優勝が決まった瞬間、チームの目は涙で光っていた。スタッフ陣も一緒になり、喜びを噛み締める中、食野は立ち上がることができず腕で目を覆っていた。吉川監督に起こされたその目には涙。優勝するために京産大に入学してきたと東京V内定会見で古井総監督が話した通り、1年次生から試合に出続け主力として、京産大の看板選手として戦ってきた4年間。「入学してほんまに色々苦しいこととかきついことが多かった中で4年目の最後で優勝っていう最高な結果」。初めて見せた涙に思いがこもっていた。

直後には閉会式が開催され、賞状、盾、トロフィーを主将陣が受け取った。その後に続いて最優秀監督賞が発表。吉川監督の名前が呼ばれると誇らしげに拍手がチームから送られる。京産大を卒業後はカターレ富山などでプレーし、育成年代のコーチも務めた経験豊富な吉川監督。昨年度、京産大に12年ぶりにコーチとして帰ってくると、今季から監督に就任。開幕前に話したことは「京産大のエンブレムに価値を持たせたい」ということだった。強豪校のエンブレムを見れば「〇〇大のサッカー部」と分かるように、京産大のサッカー部のエンブレムを多くの人に知ってもらう。そして、在籍した部員、卒業した部員がサッカー部に誇りを持てるようにと躍進し続けた結果、就任1年目でリーグ優勝という偉業を成し遂げた。試合終了直後、古井総監督と吉川監督が抱き合っていた。在学当時は監督と選手の関係性だったが、今は2人ともチームの舵取りをする立場。しかし、目に涙を溜めて抱き合う姿は教え子と監督の姿に見えた。選手だけでなく、コーチ陣にとっても悲願の優勝だった。

表彰式を終え、トロフィーらを手に抱えて主将陣が戻ってくるとトロフィーリフトが行われた。食野、佐藤、古井総監督が掲げる中、石原が掲げると恒例(?)の周囲は無反応をみせ爆笑する一面も。その後に選手らは続々とコーチ陣の元へ駆け寄ると胴上げ。古井総監督と吉川監督、時久コーチが歓喜のウォーターシャワーと共に3回宙に舞った。

チームは続々と最高です!とコメントを残した。ここまでたどり着くために無駄だったものはひとつもない。京都選手権、関西選手権の敗戦、歓喜の7連勝、残りワンプレーの悲劇。全てはこの日を迎えるために必要だった試練。流した涙は地面に染み込むだけでなく、自身を再び奮い立たせるパワーになっていた。とっぷり夜に染まった舞洲の空にカンピオーネの歌声が響く。新たに手にした関西1位の称号と共に京都へと戻る。さあ行こうぜどこまでも 走り出せ 走り出せ 輝く俺たちの誇り京産。次に目指すは日本一、信頼する仲間たちと共にその瞬間が来るまで足を止めない。【福田明音】

「📸ゴール裏から 番外編」
初めて京産大のサッカーを見たのは2020年10月18日の関学大戦。初めて取材をしたのは食野選手。優勝を決める大一番、関学大と対戦し食野選手が復活の同点弾を決めて初優勝に輝く。巡り合わせを感じる1日でした。振り返れば、リーグ59試合を取材。毎週末試合に足を運んで、平日は写真整理と執筆に追われる。「もっと遊んだらいいのに」と言われることもありましたが、何よりも彼らの軌跡を記録することが楽しかった。シーズン中はパソコンとにらめっこする日々が幸せで、いつかを夢見てがむしゃらに活動してきました。悔しくて涙が溢れた試合も、嬉しくて帰り道スキップしちゃうような試合も、全てはこの日のためだと心底感じる1日でした。2023年11月12日、日本で1番幸せな学生記者だったんじゃないかなと思います。2023年12月24日、もう一度トロフィーを掲げるその時まで、担当記者を務めさせてください。初優勝、おめでとうございます!(福田明音)
【試合後のコメント】
主将 食野壮磨選手
最高です。ラストワンプレーぐらいから急に涙が込み上げてきて、グッときた感じ。入学してほんまに色々苦しいこととかきついことが多かった中で4年目の最後で優勝っていう最高な結果
副将 川上陽星選手
みんなの力で勝てて嬉しいです。プレッシャーもあったんですけど、それに打ち勝てる実力が僕たちにはあったので、それをこのピッチで体現できたことが優勝に繋がったかと思う。取り組みが実った優勝かな。
副将 佐藤幸生選手
最高ですね。とりあえず願うことしかできなかった。途中で出ないってなってからは願うことしかできなかったので、ずっと願ってました。ここまで結果出たのも1月から始まったきつい練習とかがあったおかげやし、きつい時もみんなでポジティブにやれたっていうのがいちばんの要因やと思う。サッカーが上手いとか下手とかじゃなくて、ポジティブにどんなきつい練習も取り組めたっていうのが優勝に繋がったかなって思います。